「2023ぐんまの家」設計・建設コンクール
「ぐんまの家」設計・建設コンクールは、群馬県内に建設された良質で住み良い住宅を表彰することにより、県民皆様の住宅に対する関心をより一層高め、ゆとりある豊かな住生活の推進を図ることを目的とし、群馬県及び群馬県ゆとりある住生活推進協議会の主催、住宅金融支援機構の共催により昭和62年から実施しています。
今年で36回目を迎えたこのコンクールには、「新築住宅」として23点、「空き家・古民家再生、リフォーム住宅」として3点、計26点の作品の応募をいただきました。いずれの住宅も、施主、設計者、施工者が一体となって作り上げられ、住まわれる方のライフスタイルにあわせた提案を感じられる素敵な作品でした。公平かつ厳正な審査を行い、応募いただいた作品の中から9点の表彰作品を選考しました。
住宅にまつわる課題は、時代とともに変化しています。近年では少子高齢化の進展等に伴い、空き家が増加し、その有効活用が課題となっています。また、新型コロナウイルス感染拡大による行動様式の変化や、脱炭素社会の実現といった社会的な要請を受け、最近の住宅には、二地域居住やテレワークといった新たな住まい方への対応や、より一層の省エネルギー化、環境共生などが求められ、私的・社会的両側面において住宅が担う役割の重要性は高まっています。
本作品集では、住宅の私的側面と社会的側面を両立し、かつ施主が満足するものとするため、様々な工夫や先進的な取り組みを行った、数々の素晴らしい住宅を広くご紹介しています。皆様が将来に渡って群馬に住み続けてよかったと思えるような「快疎」な住生活を営んでゆく上で、参考になれば幸いです。
最後に、コンクールに応募いただいた皆様、厳正な審査をしていただいた審査員の皆様、御協力いただいた関係団体の皆様に厚く御礼申し上げます。
令和5年10月吉日
群馬県県土整備部住宅政策課 課長 白鳥 雅和
群馬県ゆとりある住生活推進協議会 会長 石井 繁紀
受賞作品一覧
賞 | 住宅名称 | 設計者 | 施工者 |
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最優秀賞 | 農家住宅の不時着 [リフォーム] | 伊藤孝仁+渡邉貴明+吉田 葵+堀江欣司+髙橋卓/ハ イブリッジプロジェクト | 建築舎四季株式会社 |
優秀賞 | 大泉の家 | 足立顕一建築設計事務所 | 株式会社津久井工務店 |
優秀賞 | かきの木の家 | 星設計室 | 株式会社オムニバス |
特別賞 (住宅金融支援機構賞) | 森の中の小さな家 | ケイハウス建築設計事務所 | 有限会社ケイハウス |
優良賞 | 水田鏡にうつす和らぎの家 | 大田智之建築設計事務所 | 株式会社数寄屋建設 |
優良賞 | - まちのすきま - | 株式会社城越設計 | Re-wood株式会社 |
優良賞 | ミサトノイエ | ほしかわ工務店設計室 | ほしかわ工務店株式会社 |
優良賞 | futaba ~それぞれの距離を考える家~ | 有限会社HIRO建築工房 | 阿部工務店 |
優良賞 | 重層する縮景 | acaa | 有限会社安松託建 |
審査委員長総評
「2023ぐんまの家」の審査を終え、回を重ねる毎に作品の質とレベルが高くなる様を感じました。
社会構造の変化に伴い多様化する住環境に関する課題解決や、県産木材の積極活用による持続的な地域づくりの取り組みなどは、「ぐんまの家」に求められる基本的な要素であると考えます。そして県民の安心安全な暮らしや快適で豊かな生活環境を創造するための取り組みを高く評価するものです。
今年度の応募総数は26作品であり、都市部の区画化された敷地を効果的に活用しコンパクトに設計した事例や、おおらかな環境のなか自然と融合した作品など、どれも趣向を凝らした「ぐんまの家」らしい優れた作品が多く見られました。
審査のプロセスは、一次審査により設計主旨や地域との調和、適切な価格などを考慮し、9作品を選出しました。二次審査は実際に現地に伺い施工における完成度や空間の豊かさを確認すると共に、建築主の方に直接お話を伺い、住み心地などの感想も確認させていただきました。皆様一様に自慢の家をご案内していただき、目を輝かせながらお話して下さった方もいらっしゃいました。
最優秀賞に選定されました「農家住宅の不時着」は離れて暮らしていた息子さん御家族が戻ることを機に、長らく空き家となっていた御両親が建てた母屋を改修し、依頼主の御夫婦が移り住むという計画でした。母屋は典型的な農家住宅でしたが、大胆な動線の変更と減築により、従前の記憶を継承する部材や造形を活かしながら御夫婦二人の暮らしに合った住宅に変貌し、修景された前庭が同じ敷地内で暮らす息子さん御家族の住まいとの距離感を適度に保つ役割を十分果たしていました。この作品は完成度の高さもさることながら、社会問題化されている空き家対策や人口流出などの課題も上手く解決し、住み替えの好循環がリフォームの魅力を十分に引き出すことに成功した事例であると言えます。
リフォームの作品が最優秀賞に輝くのは「ぐんまの家」のコンクール史上初であると伺います。リフォームの枠組みを超えた建築計画に高い評価が集まりました。
受賞した作品はどれも素晴らしく「家」としての新しい価値を引き出しながら細部の工夫も見てとれるものでした。
これからも、群馬の気候風土や地域性、県民性などを考慮しながら環境に配慮した住宅が多く生まれることを大いに期待します。
最後に応募された全ての方に敬意を表すると共に、苦しみながらも楽しく審査をさせていただきましたことに審査員一同、感謝と共に御礼申し上げます。
「2023ぐんまの家」設計・建設コンクール 審査委員長
(一社)群馬県建築士事務所協会 副会長 萩原 憲一
受賞作品紹介
最優秀賞
農家住宅の不時着[リフォーム]

設計者/伊藤孝仁+渡邉貴明+𠮷田葵+堀江欣司+髙橋卓/ハイブリッジプロジェクト
施工者/建築舎四季株式会社
講評
自身が建てた家に子供世帯が引っ越してくるのを契機に、かつてご両親が住んでいた隣接する空き家の母屋をリフォームして、再び三世代が寄り添って暮らす住空間を造り上げたことは、単に住まいを快適に、現代的な暮らしに合うようにしただけでなく、環境問題や空き家問題・建物長寿命化など「住生活に関する課題」を解決する取り組みとして総合的に高い評価となった。
築30年以上が経過した平家の農家住宅は、人寄せの空間が優先され、夫婦二人での日常生活には広すぎる。暑さ寒さも厳しく、特に家事空間は快適とは言えない。これらの諸問題を減築し、加えて断熱化することで温熱環境や維持管理などの負担を減らしつつ家事や作業の場を楽しめる空間へと変えている。建物の隅にできた軒下空間をデッキやテラスなどにすることで、BBQなどを楽しみ世帯をつなぐ家族の憩いの場となっている。また、もともと高く造られていた天井であるが、さらに天井を取り払い勾配天井や天窓を設けるなど平面だけでなく立体的にも開放感を増し光や風を隅々にまで行き渡らせている。和室の名残の床柱や長押なども上手く調和させ、内装に活かすなど歴史を感じさせるところなども好感が持てる。キッチンに立つと家中が見渡せ、家族の様子を感じ、見守り、見守られている安心感に包まれた素敵な建物し仕上がっている。
手を入れられた庭やアプローチも心地よく、これから何世代にも渡り、末永く住み続けられることを期待します。
優秀賞
大泉の家【おおいずみのいえ】

設計者/足立顕一建築設計事務所
施工者/株式会社 津久井工務店
講評
既存の柿の木や栗の木を残し田圃を望む敷地に建てられた小住宅は、素朴で、天然素材を吟味して細部まで丁寧に造られ、誰もが穏やかになる空間でした。
シンプルにまとめ上げられた家はデザインだけでなく、エコ住宅としての性能も十二分に満たしている。東西の開口部は最小限に南には冬の日差しを取り入れる木製の大開口、北側には採光通風の開口部を並べる。屋根で集熱された空気が家中に循環し、薪ストーブが補助する。植えられたケヤキやコナラなど落葉広葉樹は樹冠も大きく、夏の強い日差しを遮り、葉の蒸散作用や木陰は敷地を周辺部より気温上昇を抑え、落葉した冬は十分に日射を確保できる。成長しすぎた幹や枝は薪ストーブの燃料となる。
将来、田圃を目の前に成長した木々が小さな里山的な環境をつくり、友人や近隣住人、虫や鳥などの小動物までも集まり共生する。風合いを増した小さな家が雑木林の中にひっそりと佇む姿を想像することができました。
優秀賞
かきの木の家【かきのきのいえ】

設計者/星設計室 施工者/株式会社 オムニバス
講評
お寺の境内に本堂、客殿、住宅と一直線に配置された3つの建物は、反りのある入母屋の瓦屋根から露盤を載せた方形屋根、そして金属板を被せた方形へと、重厚さから簡素で軽快なかたちへと変わる様はリズミカルで心地よい。
寝室と水廻りを除いた諸室は、方形屋根に呼応した一つの角錐の天井の下に広がり、建具と家具で仕切られる。頂部に設けられた天窓は小屋裏部分の断面を鏡張りとすることで光だけでなく空を写し込む。ルーフテラスの下に設けられた寝室は半地下とし、視線を下げた窓から望む庭も趣を感じる。コンクリート打ち放しの濡れ縁は回廊のように回り込み、離れの書院と石庭を絶妙の距離感に配す。余分なものをそぎ落とした納まりから設計、施工の両者がこの住宅にかけた想いを感じられた。僧侶という立場で公私を区切ることは難しいが、家族と共に落ち着き寛ぐ時間は欠かせない、自然の移ろいを感じながらプライバシーが確保され、家族が一つの屋根の下で暮らすことを強く感じられる住まいでした。
特別賞(住宅金融支援機構賞)
森の中の小さな家【もりのなかのちいさないえ】

設計者/ケイハウス建築設計事務所 施工者/有限会社 ケイハウス
講評
住宅金融支援機構は「住まいのしあわせを、ともにつくる」ことを目指し、住宅ローン【フラット35】等の様々な金融サービスにより、質の高い住宅づくりを支援しているところです。
住宅金融支援機構賞の審査にあたっては、本コンクールの審査基準を踏まえた上で、各作品の省エネルギー性能・耐久性・家族の暮らしやすさ等に、特に注目いたしました。
各作品はいずれも優れた設計・施工が施されたものですが、今回住宅金融支援機構賞を授与させていただく「森の中の小さな家」では、緑あふれる周囲の景観と調和し、群馬県産材を活かした「ぐんまの木の家」を感じさせる外観・内観となっていることに加え、省エネルギー性及び耐震性といった点も優れていること、また、設備の更新性に対して設計上の細やかな配慮がなされていること、さらには匠の造作技術も発揮して快適な空間を演出しておられることに着目しました。
中でも、ZEH水準の高い断熱施工により消費エネルギーを抑えた性能を有しつつ、開放感に優れ、夏でも家の中を通る風が涼しく感じられる工夫は、群馬県の地域性に合った仕様と存じます。
また、末永く快適な住まいを楽しめる長期優良住宅の認定を取得されるなど十分な耐久性を備えておられ、施主様、設計・施工者様の意識の高さを感じることができました。
以上の点を高く評価し、「森の中の小さな家」に、住宅金融支援機構賞を授与させていただきます。
優良賞
水田鏡にうつす和らぎの家【すいでんきょうにうつすやわらぎのいえ】

設計者/大田智之建築設計事務所 施工者/株式会社 数寄屋建設
優良賞
-まちのすきま-【まちのすきま】

設計者/株式会社 城越設計 施工者/ Re-wood株式会社
優良賞
ミサトノイエ【みさとのいえ】

設計者/ほしかわ工務店設計室 施工者/ほしかわ工務店株式会社
優良賞
futaba~それぞれの距離を考える家~
【ふたば ~それぞれのきょりをかんがえるいえ~】

設計者/有限会社 HIRO建築工房 施工者/阿部工務店
優良賞
重層する縮景【じゅうそうするしゅっけい】

設計者/ acaa 施工者/有限会社 安松託建